伝わらない話

要約筆記という仕事をしています。
聞こえない人に、音声情報を書いて伝える通訳です。
聞こえない人がみんな手話を使える訳ではなく、むしろ手話でコミュニケーションを取る人は、聞こえない人の2割弱という調査結果もあります。

 

病気・事故など何らかの理由で聴力を失った人は、もともと日本語を使って生活してきたので、手話を覚えるより書いてもらうほうが楽で理解しやすいのです。

難聴の人は補聴器を装用してどうにか音声を拾っている人が多く、その場合も母語は手話ではなく日本語ということになります。

手話を覚えて使いこなす中途失聴者や難聴者もたくさんいますが、手話だけではカバーできない人達がいることだけでも覚えて帰って…(違)

 

しゃべるスピードに比べたら書くのは段違いに遅いです。
でも「通訳」なので、話に追いついていかなくてはなりません。

そのために無駄な言葉を削除したり、言葉を置き換えたり、文末を常体にしたり、いろんなテクニックを使うのですが、そうすると話の2割程度しか書けない(手書き要約筆記の場合)と言われています。

 

こうした制約のもとで、その場の話――会議での発言や授業の内容や病院でのやりとりなど――を正しく伝えるのは難しいです。

伝わっていないなと思ったら表現を変えて書き直すこともありますが、どうしても伝わらないときがある。

昨日の通訳がそうでした。

 

聞こえない人にうまく伝えることができなかったから、その場の人達の認識がずれてしまい、話が噛み合わない。

表面上は会話が成立しているけど、違うんですよね。そして聞こえない人が本当に話したかったことは胸の内にモヤモヤと残ってしまう。

やっぱり話が通じなかったというモヤモヤも。

 

そしてこういう話を私が誰かにしても、「聞こえる同士でも伝わらないことなんてよくあるよねー」と言われてしまって、私もまた、ああ伝わらないなあとモヤモヤしてしまうのです。

 

去年試験に合格したばかりのひよっこ要約筆記者なので、何年か経って振り返ったら、1年目は青臭いことを言ってたな、なんて思うのかもしれません。